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宮本常一の父が息子に贈った餞別の言葉

 前回の記事に続き、オブジェクト倶楽部ネタである。
 今回の基調講演は(株)豆蔵の羽生田さんだったが、羽生田さんのお話からも多くの「気づき」を頂いた。
 羽生田さんのお話の中で、最も感銘を受けたのが、民俗学者の宮本常一が郷里の山口県から大阪に丁稚奉公に出る際に父から受けた10の餞別の言葉の紹介である。
 羽生田さんは、この言葉を読み返すたびに涙が出るとおしゃったが、まったく同感である。
 是非とも紹介したい内容なので、以下に全文を引用する。

(1) 汽車へ乗ったら窓から外をよく見よ、田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、そういうこともよく見ることだ。駅へついたら人の乗りおりに注意せよ、そしてどういう服装をしているかに気をつけよ。また、駅の荷置場にどういう荷がおかれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。

(2) 村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目をひいたものがあったら、そこへかならずいって見ることだ。高いところでよく見ておいたら道にまようようなことはほとんどない。

(3) 金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。

(4) 時間のゆとりがあったら、できるだけ歩いてみることだ。いろいろのことを教えられる。

(5) 金というものはもうけるのはそんなにむずかしくない。しかし使うのがむずかしい。それだけは忘れぬように。

(6) 私はおまえを思うように勉強させてやることができない。だからおまえには何も注文しない、すきなようにやってくれ。しかし身体は大切にせよ。三十歳まではおまえを勘当したつもりでいる。しかし三十すぎたら親のあることを思い出せ。

(7) ただし病気になったり、自分で解決のつかないようなことがあったら、郷里へ戻ってこい、親はいつでも待っている。

(8) これからさきは子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。そうしないと世の中はよくならない。

(9) 自分でよいと思ったことはやってみよ、それで失敗したからといって、親は責めはしない。

(10)人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大切なものがあるはずだ。あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。


 宮本常一著「民俗学の旅」より

 前回の記事でも述べたが、僕らは単なる「個」として存在しているのではない。大きな「系」の中に何らかの役割を担って存在している。そんな僕らが、世の中に価値を生み出すためには、「系」の内側の視点にありながら、客観的に全体を見ることが必要であると思う。これは、「ものごとの構造を理解すること」、「木も見て森も見ること」であり、いわゆるシステム思考的なアプローチである。
 宮本常一の父親の言葉の(1)は、「部分を見て全体」を理解するアプローチ、(2)は「全体を見て部分」を理解するアプローチであり、極めてシステム思考的だと感じた。

 子であれ部下であれ、人を育てるというのは非常に難しい。子供や部下のためと思っていることが、その人間を追いつめ、その人間の成長を妨げている例は枚挙にいとまがない。宮本常一の父親の言葉の(6)~(9)は、人を育てる者のあり方として極めて感動的である。僕も、自分の子供や部下に対してかくありたいと思った。

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Comments

宮本常一を語る、宮本常一を語る会
http://miyamoto-tsuneichi.blogspot.com/

Posted by: 宮本常一を語る会 | 2007.02.22 at 10:57 PM

宮本常一 生誕100年 福岡フォーラム

5月27日(日) 13:00~17:00
アクロス福岡 円形ホール

フォーラム概要
主催者あいさつ[ 代表世話人 長岡秀世 ]13:00~13:10
ドキュメンタリー鑑賞[ "学問と情熱"シリーズから ]13:13~14:00
基調講演[ "家郷の訓"と私 原ひろ子 氏 城西国際大学客員教授 お茶の水女子大学名誉教授 ]14:05~15:20
パネルディスカッション[ コーディネーター 長岡秀世 ]15:35~16:45

パネリスト
武野要子 氏 (福岡大学名誉教授)
鈴木勇次 氏 (長崎ウエスレヤン大学教授)
新山玄雄 氏(NPO周防大島郷土大学理事山口県周防大島町議会議長)
佐田尾信作 氏 (中国新聞記者)
藤井吉朗 氏 「畑と食卓を結ぶネットワーク」
照井善明 氏 (NPO日本民家再生リサイクル協会理事一級建築士)

作品展示
宮本純子[ 宮本常一名言至言書画作品 ]
瀬崎正人[ 離島里山虹彩クレヨン画作品 ]
鈴木幸雄[ 茅葺き民家油彩作品 ]

Posted by: 宮本常一 生誕100年 福岡フォーラム | 2007.05.26 at 03:59 AM

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